2011年3月30日水曜日

3月27日「脱原発」  ドイツ人の選択


327日に行われたドイツの地方選挙でメルケル連立与党であるキリスト教民主同盟(CDU)と自由民主党(FDP)は暫定公式発表で計44.3%、対する野党であった緑の党と社会民主党(SPD)の計47.3%で58年ぶりの敗退である。 「脱原発」を主張する緑の党の得票は前回の約2倍の得票で24.2%となり、州の首相を担当することとなった。

私は約25年前、仕事で3年間ドイツに滞在した。 ドイツは日本やイギリス、フランスの様な一極集中都市を持つ国ではなく、都市分散の国である。家族を日本人企業の多いデュッセルドルフに於いて、400キロメートル南に位置する人口約60万人のシュツットガルトに駐在した。 シュツットガルトは大変美しい都市である。 高級車ベンツやスポーツカー・ポルシェの本社があり、精密機械工業の中心地である。 文学者シラーや哲学者ヘーゲルなど文化や芸術の薫り高い地である。
今回の選挙が有ったのはシュツットガルトを州都とするイツ南西部にある人口約1000万人のバーデン・ビュルテンベルク州である。 州の南には東西100キロメートル、南北200キロメートルの「黒い森」が広がり、その南がスイスに接している。 その「黒い森」の中には現代の夢の国の様な人口20万人を超えるフライブルグという小さな都市が有る。 市内の中心部はガソリンエンジンの自動車の乗り入れは認めず、全て電気自動車に乗り換えなければならない。 現在は小学校からヨーロッパだけでなく、世界中の自治体などから毎日見学者が絶えないという。 現在、脚光を浴びている環境都市の模範であるという。
この様な州であるから、環境的に不安定な文明は容認できない州民である。 このような素晴らしい大地に生きることこそ人間の理想であり、権利であると思っている。 若い人々がよりそのような環境を望んでいる。

先に述べた東西100キロメートル、南北200キロメートルの「黒い森」はドイツの産業革命後、樹木を伐採してエネルギーとした。 森林は死んだ。 州民は植林をして「黒い森」を蘇らせた。 「黒い森」を2度と殺さぬようにルールを作った。 
ヨーロッパ・アルプスを水源としてライン川はスイスで水量を増して、ドイツとフランスの国境を流れてオランダを介して大西洋に注いでいる。 第二次大戦後のスイス、ドイツ、フランスの産業の拡大と共に工業用水の汚染や人口増加による生活用水の悪化などでライン川の魚や生物が絶滅の瀬戸際まで追いつめられた。
ライン川を水域とする住民は汚染防止の対策を立て、現在は清らかな流れには多くの魚や生物が蘇った。
ドイツには、ヨーロッパにはこのような歴史によって、良い環境が人間の住む、生きるための当然の権利であり、義務であることを一人一人が良く理解している。

このような背景が有って初めて、今回の選挙結果となったのであると思う。 このブログの322日にドイツの原発問題を載せているが、月刊誌『世界』の今年の1月号に梶村太一郎氏がドイツの原発問題を掲載しているが、2000年に時の政権が2022年までに原発を停止して、廃炉化することを決めた。 2009年の選挙で誕生したメルケル率いるキリスト教民主同盟(CDU)と自由民主党(FDP)の連合政権は充分の議論を経ずして原子炉の寿命を32年間から12年間延長し、寿命を44年間としたことに対しての信任を問う選挙背有ったのである。 何の技術的検証もせず、国会議員の多数決で決めた政治手段を容認しなかったのである。 
これがドイツ人の国民性である。 今回、同日に選挙の有ったドイツ中西部に位置するラインラント・プファルツ州議会選挙も同じ結果が出た。 昨年(2010)5月に選挙が有った、やはりドイツ中西部のドイツ最大州のノルトライン・ウェストファーレン(NRW)州議会選挙でも敗北している。 従って、2009年成立したメルケル政権は3連敗である。 全て争点はメルケル政権の原発寿命の延長策に対する信任拒否であった。
ドイツの下院(日本の衆議院に相当)はメルケル連立与党が優勢であるが、日本の参議院に相当する上議院は野党の民主党と緑の党が優勢であったが、今回の選挙で優位性は更に高まったことになった。
日本の東電・福島原発の放射線漏洩事故は多少の追い風となったかもしれないが、基本的にはドイツ人の「脱原発」の選択の結果であると思う。

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