2011年7月27日水曜日

食糧価格上昇とランドラッシュ


アフリカ東部は60年ぶりの干ばつで食料危機が発生し、1200万人が深刻な飢餓に直面し、特にソマリア南部は暫定政府と対立する武装勢力の実効支配下で、370万人の生命が危機に直面しているという。
下で触れるアフリカ東部で領土の大きい国はスーダン、エチオピア、ケニア、タンザニアなどである。

20089月のリーマンショック以来、先進諸国は長期の経済停滞から抜け出せない。 アメリカは82日を期限として国家破綻の生死を賭けて、政権与野党は上下院のねじれ議会は解決策に至らない。 ヨーロッパではギリシャが国家破綻の一歩手前で困窮している。 政権は当面の金策のメドはついたが、国民は公務員の削減や社会福祉などの公費削減に納得していない。 ギリシャに続いてポルトガル、アイルランド、スペイン、イタリアなど財政不安定国がひしめいている。
日本は東日本大震災と原発事故で社会全体は大打撃を受け、経済も冴えない。 政治はアメリカと同じねじれ状態である。
BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国の国名の頭文字を表す)で代表される先進国は、それなりに経済状況は堅調であるが、それぞれ問題を抱えている。

この状況でも長期的には食糧価格と原油価格は上昇傾向であっても、値下がり傾向にはない。
2007年からの原油価格上昇以来、アメリカやブラジルなどでトウモロコシや大豆などの穀物が燃料用エタノール転用された。 その結果として穀物が逼迫し、穀物価格の上昇が始まった。
肉食価格は穀物価格に連動して上昇傾向にある。 世界的にも牛、豚、鶏の主飼料は穀物である。
牛肉1kg生産するには10kgの穀物を要する。 豚肉には5kgを要する。 鶏肉には3kgを要する。 従って、人間の食生活で肉食比率が向上すると穀物の需要はより高まる。

現在、世界人口は69億人である。 2050年には91億人と約30%増加する。 現在、充分に食糧が満たされない人口も有るし、肉食比率の増加も有り、2050年には穀物増産比率は40%と予測されている。

食糧増産と燃料用油種製造目的もあり、世界では“ランドラッシュ”(現代版・農地争奪戦)が進行している。
小麦、トウモロコシ、大豆などの穀物やサトウキビ、バームオイルなどの増産のために、ヨーロッパ、中国、韓国、インドや中近東諸国がアフリカ、南米や旧ソ連圏の未開発の農地などを大掛かりに買収している。 アフリカなどでは領地の境界などは明確でない場合が多く、多くの住民は急きょ強制的に立ち退きさせられるケースも有るという。 この現象を「新植民地主義」として非難を浴びる事例も少なくないという。

世界銀行による20109月の発表によると200810月から098月までの11ヶ月で
プロジェクト数は464件であり、具体的に把握できた203件の面積は4460万ヘクタールであり日本の面積(3780万ヘクタール)の12倍に近い。
具体的な事例では中国はコンゴ民主共和国やザンビアなどに517万ヘクタール(スイスやオランダより広い面積、共に410万ヘクタール)を買収している。 インドはエチオピアやインドネシアに171万ヘクタール(クウェート、180万ヘクタール)を取得している。 韓国は105万ヘクタール(レバノン共和国、100万ヘクタール)を入手している。 一部、民間企業の参画も有る。
日本は民間ベースである。 三井物産がブラジルの穀物業者に出資し、大豆、トウモロコシを生産し、その一部を日本へ輸出している。 商社・双日がブラジルのバイオエタノールと砂糖事業に参入しているが両者とも小規模である。

2011年7月26日火曜日

福島原発事故の放射性廃棄物 5月末の推定値

311日の東日本大震災の地震と津波の被害額は1625兆円の範囲であろうという推定額は政府から地震発生の2週間後には報道されている。 阪神淡路大震災の被害は約10兆円であった。

特に今回の福島原発事故に関して、メディアの姿勢は週刊朝日と週刊現代は「煽り派」、週刊新潮と週刊ポストは「慎重派」という評価らしいので、朝日新聞社発行の「AERA(アエラ)はやはり「煽り派」かもしれないが、AERA66日号に「明日なき放射性廃棄物」という記事が有った。
530日発売であるから、5月中旬の情報であろうが、放射線に汚染された土壌と冷却水だけでも処理費用は66億兆円になるという。

放射性廃棄物は通常の廃棄物と異なり、処分方法は法律で厳格に規定されている。 茨城県東海村の日本原子力研究機構の東海研究開発センターが大学や研究機関から放射性廃棄物を処理委託された場合に適用する「放射性廃棄物処理処分料金表」に基づいて算出した推定値である。
従って、多量処理の場合のコストは可なり圧縮できると思う。

「汚染土壌」は文部科学省と米国エネルギー省の調査による“汚染された土地“800平方キロメートルを対象としている。 琵琶湖の湖水面積の1.2倍に相当し、福島県の面積の5.8%である。
地表から5センチメートルの表土を除去すると、4000万立方メートルとなる。 東京ドームは124万立方メートルであるから32杯分に相当する。 この処理費用が46兆円となる。

「汚染水」は5月末で約10万トンである。 12月末までに20万トンとなる。 25メートルの標準プールで410杯分となる。 1トン1億円として20兆円となる。 「汚染土壌」と「汚染水」で処理費は66兆円となる。 現在、フランスとアメリカ企業の排水処理はこのベースを超えるのではなかろうか。

それ以外に「ヘドロ」が120万トン。 これは津波によってもたらされた、原発から半径20㎞圏内の海岸線に堆積されている。
「瓦礫」は同様に20㎞圏内で津波によって破壊された家屋などである。
「汚泥」は約3,000トン。 放射性物資を多量に含む福島県内及び県外の“下水処理施設”より発生する。
「家畜・農産物廃棄物」は7500トンである。 これには7月になって顕在化した“汚染ワラ”に伴う牛は勿論のこと加味されていない。
その他、原発作業者の「防護服・マスク・靴」その他がある。
これらが約20兆円に近いという。 
この20兆円に「汚染土壌」と「汚染水」の66兆円を加算すると90兆円に近い。 
日本人一人当たり負担額は約75万円であり、いずれ国債なり、消費税で国民負担となるであろう。 これからこの数値は更に増加するであろう。 一度事故を起こすと何とも大金のかかる大人のオモチャである。  
以上は被害金額を算出した推定値であるが、数値化できない大問題は上記の放射性物資を含んだ固形物を保管する場所がない。 仮に、地中に密封するにしろ大変な作業であるし、運搬費用なども加算される。
原発被害者や農作物、家畜・水産被害などに対する賠償はこれ以外である。

今後、被曝者に障害が発生したら、たまったものではない。 被害者や関係者の苦しみや悲しみは決して解消されない。

2011年7月3日日曜日

ギリシャ危機 起因の真相


日本は東日本大震災と併発した福島原発の放射線飛散、更に不安定な政治で混沌としている。 アメリカは経済がまた腰砕けの様な状態であり、要の人物であるガイトナー財務長官が辞任の様子であるし、来る82日の国債償還の目処が立たず、場合によっては「国家破綻(デフォルト)」なんてことが有るかもしれない。
ヨーロッパは「脱原発」の問題は一時的には治まったようであり、ギリシャの混乱も当面「収束」したようだが、決して「終息」では無いであろう。 
こんな折、国家の破綻をその手前でブレーキを掛ける主役のIMF(国際通貨基金)のトップ・専務理事であったドミキク・ストロスカーンが「不祥事」の廉(かど)で失脚し、一時的には新興国の反発も有ったが、「欧州の指定席」といわれる専務理事の席は、引き続きフランスのクリスティーヌ・ラガルドに決定した。 就任は75日に決定した。 
71日のニューヨーク州裁判所はストロスカーンの軟禁状態の処分を解除したという。 理由は被害者の女性の虚言で有ったという判断の様であり、今後、更に尾を引く問題の様である。 完全に無罪となれば、一番の焦点は来年のフランス大統領選挙かもしれない。 サルコジ大統領の心中は野党の有力大統領候補であるストロスカーンの動向であろう。

「豚(ぶた)」を英語で「pig」、この複数は「pigs」であることは誰でも知っている。 この単語をもじって「PIIGS(ピッグス)」がヨーロッパの問題として「国家破綻(デフォルト)」の瀬戸際に有ることで、世界で大問題となっている。 PIIGSはユーロの国家であるポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインの国名の頭文字を指している。 
2007年夏に問題化したアメリカのサブプライム・ローン危機や翌年9月のリーマン・ショックによって財政問題が顕在化した。 これらの国々以外でもイギリス、フランスのみならず、東欧の新興諸国も安閑としていられる状況ではない。 但し、財政問題の要因は国々によってかなり異なっているようである。
ギリシャは2010年初めから特に問題化し始め、翌年3月頃よりポルトガルへ飛び火した。 更に5月からギリシャ、ポルトガル、スペインの国債売りが加速し、アイルランドも影響を受けた。 2010年の早春から、世界の3大格付け会社はギリシャ、ポルトガル、スペインなどの国債の格付けを下げ始めた。

ギリシャのアテネで2004年にオリンピックが開催された。 ギリシャの歴史はよく知られているが、現在の人口は約1100万人、GDP2008年で3575億ドル(1ドル=100円とすると約35兆円)、1人当たり30534ドル(日本は3415ドル)、国家予算は年間約12兆円であるから、日本の約1割の規模と考えられる。
ギリシャは1981年にEUに加盟した。 EU19991月よりドイツ、フランスや11カ国でEUの統一貨幣であるユーロを導入した。 ギリシャは導入基準に達せず2年遅れてユーロの採用を始めた。 採用基準は「財政赤字はGDP3%以内」、「公的債務残高はGDP60%以内」である。 
1990年の財政赤字がGDP16%であったが、1999年には1.6%まで縮小させて基準をクリア―したが、公的債務残高は採用前の2000年初めにはGDP104%であった。 これは基準値を大きく外れていた。 この状況であるギリシャに貨幣ユーロの採用を許可したEU本部の判断が甘かったこともあろうが、2004年開催のオリンピックに対するEU諸国の声援も有ったのだろうが、認可されたギリシャ政府の財政規律に対する意識を緩めてしまったのであろう。
2009年の財政赤字はGDP13.6%、公的債務残高はGDP115%と悪化していた。

産業面では観光がGDP2割であり、製造業が各々約20%であり、業種は繊維、履物、加工食品、果実、たばこなどの軽工業などである。 その他海運業が盛んである。

200910月の総選挙で保守系の政権与党が敗北し、革新系の新政府が前政権の政府統計を粉飾していたことを摘発して、ギリシャ財政の実態が判明した。 そういう意味で他の欧州諸国の経済危機と要因が大きく異なっている。

ユーロを採用した2001年~07年の実質経済成長率は平均値で4.7%であり、EU圏平均値1.9%より高い数値である。 歳入は健全であったかもしれないが歳出に大きな問題が有った。
国債の利払いを除いた歳出中で「社会保障給付金」が44%、「人件費」が28%で70%に近い。
「社会保障給付金」は現役時代の平均年収に対する年金給付水準を「年金代替率」というそうであるが、その数値がギリシャでは93.6%である。 スペイン73%、イタリアが男子69.3%、女子が53.9%、ポルトガル53.6%、フランス51.2%、ドイツ40.5%、アメリカ37.1%、日本37.1%。 ヨーロッパでも地中海諸国は比率が高い。 特にギリシャはダントツである。
ギリシャでは法定退職年齢は65歳で有るが55歳から受給できる。 55歳で退職しても年俸差は6.4%減である。 これでは65歳まで真面目に働く人は少ないだろう。
「人件費」は、現在の野党となっている「新民主主義党」が政権担当期間(200409年)の政権中には選挙の功労者など約10万人を公務員として採用し、200億ユーロ(約2.5兆円)の歳出増をさせている。 歳出の約2割の増加である。 現政権党「全ギリシャ社会主義政権党」も198190年、19932004年に同様に選挙支持者を公務員として採用していたそうである。 1974年に君主制を廃止して以来、両政権は政権交代ごとに公務員を増員させてきたのが実態で有るそうだ。 
公共部門の雇用は労働人口500万人中の25%で有り、公共部門はGDP40%にもなるという。

歳入に大きな問題が有ったようである。 ギリシャでは脱税や税務署員の汚職が蔓延しているという。 医師、弁護士や小売業者が人口の約3割であるが、所得の過少申告が横行している。 
税務署員の汚職は脱税への加担である。 2009年の新政権下で税務署幹部を交代させ、200人の職員を調査した結果、50人の職員の保有する不動産資産が年収5万ユーロに対して122万ユーロから300万ユーロであったという。 年収の約2560倍の不動産資産を持っていたという。
税収の大きい財源である付加価値税は20102月までは19%であり、EUの標準的水準である。
但し、民間消費に占める付加価値税収の割合から算出する「実効税率」は約半分の10%である。
ドイツでは70%であるという。 何とも国民には住みやすい、生きやすい「天国」であった。